「悩みのるつぼ」
朝日新聞 be 2025.5.31.
相談:
飲み会で言われる不快な言葉
女性 30代
回答:
年上・多数派との「権力差」覆そう
文筆業 清田隆之さん
相談内容:
職場の飲み会、趣味のサークルなどで、
男性一人に女性複数という時に
よく言われる言葉。
「〇〇さん、ハーレム状態だね~」
「今日は芸者さんいらずだね」
「〇〇さん、手を出しちゃダメよ」
発言者は50~60代の女性が多い。
こういうことを言われると、
私は「主体性を無視されている」と感じる。
発言者に深い意図はなく、むしろ、
誉め言葉ととらえているのかもしれない。
男性側も気まずそうにしていることが多い。
「若い時にそういうことを言われて
あなたはうれしかったんですか?」と
私が言うと、角が立つ。
「そんなこと言うのやめてください!」などと言えば、
発言者は自身の発言に問題があるのではなく、
私がその男性を嫌がっていると捉えるのでは――とも
考えてしまう。
結果、いつも強く出られない。
軽やかに対処する、もしくは、
そんなことを言われなくなる方法はあるか?
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回答:
「ハーレム」には、様々な前提や決めつけが含まれている。
「そこにいる女性たち=男性をもてなす”華”や”献上品”のような扱い。
全員が男性に好意を持っているという前提にされていること。
また男性に対しても、
「そこに女がいれば性的な興味を示すはず」で、
その状況を喜ぶはずという前提。
勝手に「選ぶ側/選ばれる側」という構図に組み込まれ、
望んでもいないのに性の対象物として扱われる感覚こそ、
相談者さんの言う
<主体性を無視されていると感じてしまいます>の真意だと思う。
全方位的に失礼な言葉であるにもかかわらず、
発言者は、おそらく無自覚だと思う。
丁寧に諭しても、きょとんとされそうだし、
強い口調で異議申し立てをすれば、逆に、
”被害者ムーブ”すらしてくるかもしれない。
そこに権力差があるから、難しい。
相手が年上であること、多数派であることも
ある種の権力。
先に挙げた「ハーレム」のジェンダー観は、
今なおこの社会で延命し続けている。
この「世間的に否定されてない」という事実も、
発言者を暗にバックアップしている要素の一部。
この権力差をいかに覆していくかが、
ポイントになるかもしれない。
例えば、この手の違和感や不快感を共有できそうな人
(気まずそうにしている男性など)と普段から
”横の連帯”を築いておく。また「ハーレム発言」する年配女性のうち、
個人同士なら話の通じそうな人に狙いを定めて、
相談を持ちかけ、多数派の切り崩し工作を行う手もある。
この相談文のように、社会に知らしめて、
世論に訴えていくのも、カードのひとつ。
不快な発言に巻き込まれながらも、
権力差によって感情を飲み込まざるを得ないこと、
価値観を曲げざるを得ないことが苦しいわけですね。
様々な手段で権力差を埋めていくことで、
主体性や自尊心を回復させることはできる。
それは結局、「ハ-レム」発言のようなものが
出てこない環境づくりにも、つながっていくと思う。
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私の回答
「笑って受け流す」以外の選択肢を、自分に許す
「ハーレム状態だね」「芸者さんいらずだね」
そんな発言を口にしてしまう人たちには、
「場を回さなきゃ」「みんなを笑わせなきゃ」という、
昭和的な“サービス精神があるのかもしれません。
悪気はない。
緊張感をほぐすために“気を利かせたつもり”
――それがまた、やっかいなのです。
私自身、あるセミナーで似たような経験をしました。
講師は50代の女性。
登壇の際に「今日はお座敷に呼んでもらって」と笑いながら言いました。
場の緊張をほぐす意図だったのかもしれませんが、
参加者は全員女性。
しかも、講師より年上の人権意識の高い方々。
「多数派・年上」は受講生側、つまり、
相談者さんとは真逆。
「お座敷発言」が妙に引っかかり、
講師の話に集中できなくなってしまいました。
おそらく、講師は男性相手の仕事が多かったのでしょう。
男性にウケたからと言って、女性にウケるとは限りません。
相談者さんが感じた「主体性を無視されている」という感覚は、
決して些細なことではありません。
言われた相手がどう思うかより、
「ウケるかどうか」「場が盛り上がるかどうか」を優先する言葉は、
その場にいる人を置き去りにすることがあります。
そのズレに気づけるあなたは、
自分の感覚や感情を大切に扱う力がある方。
「その場で言い返す」以外の対応
「やめてください!」とハッキリ言うのが難しいのは当然です。
相手は年上で、しかも“多数派”という構図。
そんなときのために
「笑いながら軌道修正する言葉」を持っておきましょう。
・「“ハーレム”って、令和の今ちょっとアウトじゃないですか?(笑)」
・「私たち、そんな接待役じゃないですよ~(笑)」
・「それ、今どきあんまりウケないかも……(笑)」
場の空気を壊さず、“その言葉、ズレてますよ”と軽やかに伝える。
そんなグラデーションのある対応ができると、
自分の中の「モヤモヤ」も少しずつ整理されていきます。
言えなかった自分を責めない
もし、何も言えなかったとしても、自分を責める必要はありません。
「私は、あの場で無視されたように感じた」
「私は、“添え物”のように扱われて、心が冷えた」
そんなふうに、あとからでも自分の気持ちを言語化するだけで、
自尊心は守られていきます。
あなたの“違和感”は、誰かの心を守るセンサーともなります。
言葉の「型」が古くても、それを良しとする空気が強くても、
自分の感情のほうを信じていいのです。
「笑って受け流すのが大人の対応」しかなかった時代から、
「きちんと不快だと伝える」「その場から離れる」選択肢を
持てる時代へ。
その移行期にいる私たちは、きっと迷いながらも、
“誰かのために”ではなく、“自分のために心地よい場”を作る力を
育てていけるはずです。